向う付け

久しぶりのネタ下ろしが済みました。ネタ下ろしとはその演目を初めてやること、つまり初演です。昨日は「向う付け」の初演でした。

と、言い切れないことを白状します。実は私、「向う付け」という噺を中学生の時に学校でやってるんですよ。つまり、初めて人前で落語をやった。それが「向う付け」だったのです。私に落語の魅力を強烈に教えてくれはった笑福亭仁鶴師匠のLPレコードで覚えたのです。そのレコードがこれです。写真はCDですが……。

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それが上手いこといったかどうかは、当時の宇治中学校3年4組の同級生に聞いてください。……たぶん誰も覚えてないでしょう。

素人時代にやった演目というのは、プロになってから逆にやれないことがあります。今でもやってない噺が他にありますもん。「向う付け」もそうでした。ずっとやりたいと思いながら、ようやらなんだ。

そんな折、創元社の「米朝落語全集増補改訂版」の第7巻にうちの師匠の「向う付け」が新たに載ることになりました。旧版には載ってません。これはラジオから録音されたテープが見つかったからなんです。昭和37年の録音です。なんかすごいでしょ?

何がすごいって、わたしゃ桂米朝の「向う付け」なんか聴いたことなかった。それどころか、やったことがあること自体知らなんだ。私だけではなく他の弟子もほとんど知らないでしょう。その「向う付け」の速記を全集に載せる手伝いを自分がするなんて、想像もできなんだ。あ、第7巻はまだうちに届いてません。

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ま、そんなわけで「向う付け」と取り組んだのですが、めっちゃおもろいやんか。なんで、もっとやらなんだんやろね。たぶん、これっきりやってない。もしくはやったとしても1、2回でしょう。今、若手の噺家が何人も手掛けていますが、お手本の元は仁鶴師匠だと思います。それとは一味も二味も違うんです。

人よりも早くこれを入手した私の役得ですな。すぐに「やろう」と決めて、それで昨日やったというわけです。はい、すごく楽しかったです。もちろん初めてやるのですから、粗削りでミスもありましたが、思い描いた通りの反応がお客さまから返ってきました。

この心地よさは舞台に立つ人ならわかってくれると思いますが、気分が昂って、あとの打ち上げで珉珉の餃子を食べながら、しゃべることしゃべること。付き合うてくれた皆さん、うるさくてごめんなさい。みんなと別れたあともその興奮状態は続いて(一人の時は黙ってますが)、目は冴えわたって全然寝られへん。3時半頃まで起きてました。いつもなら目が覚める時刻やがな……。

けど、昨日聴いてくれはったお客さんは、そこまで思てはらへんやろうね。……まあ、よろしい。

「向う付け」はまたやるので聴いてくださいね。

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